フィン人ダンナが知床の漁師衆にもまれた末に覚えた日本語とは

2015年7月30日



そこそこ長く務めた仕事をやめてフィンランドに引っ越すことにしたとき、まわりのヒトらにはアレコレいろんなことを聞かれた。引っ越したあとはかの地でなにをするのか(仕事をするのか、主婦をするのか、はては学校に行きなおすのか)、かの地の冬はどのくらい寒いもんなのか、オーロラはホントに見えるもんなのか、トナカイはほんとにそこらを徘徊してるのかとか、ナニを食べるのか、などなど。

そんな中、当時ご近所さんや近所に住んでいた友達によく聞かれた質問は、

「フィンランドには海はあるの?」

というのだった。


そのころ私が住んでいたのは、北海道は斜里町のウトロという人口500~600人のちいさい町だ。ちょうど10年前に世界遺産になった知床国立公園の玄関口にあたるところで、住んでいるのは観光や漁業をなりわいとするヒトが多かった。なので自然と、私の友達の多くも、本人が漁師さんだったり、漁師さんの奥さんや家族だったりした。


「フィンランドに海、ありますよ。こんど引っ越すオウルって町には海あります」

と私が答えると、みんなたいてい安心した顔で、

「じゃ、だいじょーぶだね。魚もたべれそうだし。。」

と、一様に言ったものだった。





ひとによっては観光のほうがメインというイメージがあるかもしれないけれど、ウトロという町はそれ以前にやっぱり漁師町だった。

「まだ仕事やってんのか?OOO(魚の名前)あるから早くとりにこい!」
と残業中に電話もらって、あわあわパソコンとじてビニール袋カシャカシャいわせながら職場の階段かけおりたり、

交差点ですれちがいざまに反対車線の軽トラック車の窓から
「OOO(魚の名前)足りてるかー?」
と大声で気を使っていただいたり、

「OOO(魚の名前)食ったことあんのか?ないのか?じゃ、やる!さばけんのか?さばけないのか!じゃ、おしえてやっから家に来い!」
とかいう流れでみっちり教えていただいたり、

正月前になれば
「実家、帰るのか?これトーさんカーさんに食わせてやれ」
とアレコレ魚つめあわせをもたせてもらったり、

仕事の取引先の銀行の方がお中元的に差し入れてくれるのが1人1本カラフトマスまるごとだったりした。

思い出せばきりがない。
こんな調子なので、その町にすんでいた間、ほとんど魚はお店で買ったことがなかった。

加えて、誰かのお家でご飯をごちそうになるときや、ご飯を食べに連れて行ってもらうときは、渾身のベスト・オブ・ベストな魚やら魚介類ばかりがでてくる。イクラやらカニやらエビやらウニやら、はては幻のシャケとかよばれている一切れ何万円だかというケイジだって、平素からさんざんバクバク食べさせていただいていており、

「こりゃー、この町の漁師以外のとこにヨメにいったら、魚に関しては決して幸せになれないだろう」

と当時から私は心配していた。





まわりの方々も心配してくださっていた。具体的に言うと、そこの町の漁師さんのとこにヨメにいくようにといろんな人がアレコレ直接的&間接的便宜をはかってくださったり(早い話、マンツーマン飲み/合コン等アレンジ)、

「この町でヨメにいけば実家もそこそこ近いし、実家のオトーサンオカーサンも喜ぶしさ!子供だって育てやすいよ!」などなど言葉たくみに展開される、私のメンタル面のケア(早い話、私がその気になるようにするための説得工作)などである。


そのかいもなく、コイツは、結局フィンランド男と結婚し、フィンランドで一生暮らすという。


かの地では魚食べれなくなるんじゃないかという心配もだけど、それよりなにより、

外国なんかで無事に生きていけるのか?
苦労するんじゃないのか?
アレやコレや、だいじょうぶか、コイツは?!

そういう色々な心配というか疑問というか、そういうのがあったんだと思う。


けどそういうのぜんぶひっくるめて、


「その町には海がある」


ってことだけで、なんとかなるように思えちゃうのが、この町のヒトであり、この町の空気だった。
そんな気がする。




こないだ日本に行ったときも、この町ウトロにダンナも一緒に顔を出しに行った。

ちょうど私らが北海道にいる時期に、この町で年1度ひらかれる大漁祈願祭というその年の大漁を祈願するお祭り(名前そのまんまです)があったのだ。そこに行けばお友達や知り合いや元同僚やら元ご近所さんやらにまとめて会えそうとだなと思い、その日めがけて行ったのだった。


大漁祈願祭は、主に4つのパートからなる。

1.大漁旗でかざりつけした漁船団を前に、神主さんがなにがしかのお祈りをする。
ザ・セレモニーなパート。

2.お祈りが終わったら、漁船団があたりにあつまった人々をのせて、演歌をBGMにぐるっとあたりを海上パレードする。ザ・パレードなパート。

3.各番屋(漁師さんたちのアジト)で開かれるバーベキューパーティー的な飲んで食べて大声で笑ったりする懇親会をはしごする。ザ・飲みだおれパート。(朝11時くらいから夕方5時くらいまで続く)

4.ザ・二日酔いのパート。(翌朝5時くらいから夕方3時くらいまで続く)


ダンナはこの町に何度も来たことがあるのだけれど、このお祭りに行くのは初めてである。
ダンナはこの町では、『まる』『まるちゃん』(マルクスの略)などと私のお友達のみなさんに呼んでかわいがっていただいている。





それにしても、パート3である番屋のBBQマラソンが予想通りたいへんだった。

ダンナは日本語がほんとにぜんっっっぜんできないので、知り合いの漁師さんたちには以前からダンナに日本語をちゃんとおしえるように!と言われていた。

なので今回ダンナがぜんぜん日本語を習得していないのを知ると

「ちゃんと日本語べんきょーしろっていったろが!まる!!」

と皆様におこられる、ダンナ。。。

結局みなさんその後は本人がわかっていようがいまいがおかまいなく日本語でバリバリとダンナに迫っていらっしゃった。ザ・スパルタ日本語スピード・ラーニングである。
このスパルタ・ラーニングの最中、ダンナはすごい便利な言葉を思い出したらしい。
すなわち、「ハイ」である。



「まる!ちゃんと飲んでるか!」

「ハイっ!」


「まる!これ食ったか?食ってない?新しいの焼いてやる!さあ食え!!」

「ハイっ!」


「まる!こっち来てすわれ!」

「ハイっ!」


ほぼ、どこかのお寺の小僧さんである。
すでに坊主頭だし、即戦力候補じゃないか。


ちなみにうちの一休さん候補、もといダンナは、今回ウニのおいしさに目覚めたもよう。





これまでウニは彼の中では「おいしいと思うけれど、大好物とまでいかない」部類の食べ物だったのに、今回塩ウニ入りのおにぎりを食べた時点で、見る目が変わったようである。

大好物が増えるのはいいけれど、ウニはフィンランドでなくても日本でもそうそうなかなかオトナ買いしていやになるほど食べれる食べ物ではない。大好物は納豆くらいにしといてほしかったわ。。






それにしても、どこの番屋にも気の利く若い衆や姉御衆がいて、ダンナのビールが半分くらいになったら、さりげなくかつダンナの目にもとまらぬ速さでつぎ足してくださる。

ダンナ、なんでこんなに飲んでるのにビールがぜんぜん減らないんだと、不思議そう。
で、しばらくじっと胸に手をおいて観察。

してみたら、気が付いた!
番屋のコビト、もとい、気が利きまくるお兄さんやお姉さんがこっそりついでくれてたのか!!

衝撃の事実に気が付いたダンナ、私のそでをひっぱり、

「ゆっくり飲むからつがなくてだいじょうぶです、と伝えてください」という。

しょうがないので、私がダンナの気持ちを皆様に直球でつたえたのだけれど、


「え、でもそんなぬるくなっちゃったビール、まずいしょ!」

「いいから いいから!入れたげるから!飲んで飲んで!!」

と言って真に受けてくださらない。


こんな調子で、ダンナはどんどん飲んでどんどん酔っぱらっていった。
さすがのフィンランド人男子も、そこそこ千鳥足である。

でも、そこは三十路っこ男子、そこそこオトナな分別が残っているので「これ以上飲んで公共の場で失態を犯してはならない」と、ぐるぐるまわるよっぱらい脳で必死に考えたようだ。で、ふと私に聞いてきた。

「ねえ、さっきから日本語で何回も言ってる『まぁまぁまぁ』って、なんて意味なの?」

あ、それはね、もうお酒をついでほしくないんだけどつがれそうになった時にその場をごまかしたいときとか、こっそりお茶のんでたのがバレたときにその場をごまかしたいときに言う日本語なのだよ。

まぁまぁまぁっていうコトバのあとの空白にはいろんな意味が含まれてるんだけど、だいたいは『かんべんしてね』 『みなかったことに してね』 ってなところだとおもうよ。

と、私はダンナに解説してあげた。


「なにそれ、べんりじゃん」

と、ダンナ。
なんと、よっぱらいのクセに、すぐに『まぁまぁまぁ』を習得、すぐに実践で使い始めたではないか。


でも、すぐに問題が発生した。
なんと、『まぁまぁまぁ返し』にあってしまったのだ。


「まぁまぁまぁ (かんべんしてくださいよ)」

を、

「まぁまぁまぁ (いいじゃないですか、一杯くらい)」

でかわしつつさらに前に押すっていう、日本飲み文化の常套手段である。


習ってない展開に困惑するダンナ。

飲み会の師として、すかさず私が

まぁまぁまぁ返しを破るのもまた、『まぁまぁまぁ』である。 
なんど『まぁまぁまぁ返し』にあっても、こっちもしつこく最後まで『まぁまぁまぁ』を貫けばよいのだ

と、いう尊い教えを授け、ダンナはそれをすぐに習得したのだけど、


時、すでに、おそし!

もう、飲むだけ飲んだ あとだから!!

いまさら酒のもうがことわろうが、たいして変わらないから!!

アンタ、まぁまぁまぁまぁ言えば万事解決すると思ってるメンドクサイただの酔っ払いだから!!




その晩はお友達の家に泊まるので、大漁祈願祭おわったらそちで飲みなおして朝まで飲み明かそうねって言っていたのに、メンドクサイ惑星フィンランド地方出身のまぁまぁ星人と化したダンナはそうそうに10時かそこらでご就寝。

おかげで私はゆっくりお友達らといっぱい飲んでおしゃべりして、楽しかったです。


それでは、また!


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日本で結婚して日本で暮らしたらどうなるかの実験のために、ダンナがこの知床の漁師町で何度か数週間づつ主夫体験したときのことを色々思い出しました。そんなことしたのかアンタら!そのときの話も読んでみたいかもよと思っていただける方が多ければ、だいぶ前の昔話ですが書く気になるかもしれないので、応援クリックいただけると嬉しいです。↑


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