菩薩おじさんアルポは職安専属心理カウンセラー

2015年3月28日



こないだあるオジサンにすんごいお世話になった。

オジサンの名前はアルポという。

初めてアルポに会ったのは、2か月ほど前のこと。

当時私は通っていたフィンランド語学校修了を目前にしつつもその後の進路をなかなか決められず、オロオロしていた。オロオロ極まった私はある日職業安定所の心理カウンセラーのところに相談にいってみることにした。

で、その心理カウンセラーが、アルポだった。




さっきサラっと『職業安定所の心理カウンセラー』と便宜上訳したけれど、正式名称はammatinvalintapsykologiといって、直訳っぽく言うと『職業選択臨床心理士』のようなかんじになるのかしらん。そこからお察しいただけるように、サイコロジストといっても、仕事でのツライ思いを打ち明ける系のカウンセラーとか精神科医のようなものではない。

「じぶんは何の仕事をしたいのか、わからないよ!」

「私ってどんな仕事に向いているのか、わかんないよ!」

「今までとはぜんぜん違う分野の仕事をしてみたいけど、どうしたらいいかわかんないよ!」

と言った、職業選択や進路選択になやむヒトの相談にのってくれるのが、この職業安定所の心理カウンセラーさんらなのだ。早い話、サイコロジストの資格をもった、キャリア相談アドバイザー。

上記心のさけび例を読んですでにお察しになった方もいるかもしれないけれど、この職安心理カウンセラーのお世話になるのは中学・高校卒業目前など進学先選びになやむ若者らや、社会に出る直前/直後の若者らが多いそう。実際、私の周りのフィンランド人の友達にも高校卒業前くらいのタイミングで、このカウンセラーのお世話になったというヒトがけっこういた。

もちろん、社会に出る前の若い人らだけがお世話になるわけではない。

職安にはこういう心理カウンセラーさんがいてタダで相談に乗ってくれるのだということを教えてくれたダンナ姉であり高校時代からの友達であるハンナは、私とおなじ三十路なかばだ。

彼女はおととしの秋に魚の心臓の研究で生物学の博士号をとったのだけれど、その後仕事が見つからなくて私と同じく求職中の身。

「博士号生かして仕事見つけるのは、ちょっとキビシイかも。」
 
と、介護士とかマッサージ士とか他の『手に職』系のキャリアへの方向転換も検討中なのだという。
やっともらった博士号もったいないけれど、それにしがみついてずっと無職状態が何年もつづくというのも困るわけだ。そんなわけで、ハンナも去年「魚の心臓ネタ以外で、私が向いてそうな仕事ってなんでしょう」と相談に行ったのだそうだ。




心理カウンセラーへの面会予約があった日、私は緊張きわまってソワソワしすぎて、結果、20分も前に職安の入った建物に到着してしまっていた。

職業安定所っていうと、失業の二文字を苦くて白い顔して背負った人びとらがイライラしながら列つくって並んでいるっていうイメージがあったのだけれど、オウルの職安は少なくともそういうかんじではない。

正面玄関から入るとまずシンプルモダン風なひろびろしたロビーがあり、その奥に情報検索用のパソコンがずらっとならんだコーナー。さらに奥にいくと、ちょっと高級な銀行風のガラスの壁とドアでしきられた個別ブースが並んでいる。ブース前にならんだ高級病院風のソファーには、ぽつぽつと順番待ちのヒトらが腰かけ、しずかに雑誌などを読んでいた。

事前に面会時間や面会担当者がきまっているヒトらは、担当者のヒトが呼びに来てくれるまで、廊下に置かれた椅子にすわって待っているシステムになっている。私もそこでじっと息をひそめてじーっとすわっていた。

隣には黒い革ジャケットに革パンツ、黒い革ブーツにはびっしりメタリックなスタッズがついた長髪おにいさんが座って、ドナルドダックの漫画を読んでいる。このお兄さんも就活の壁にぶちあたって悩んでるんだろうなと思うと親しみがわいてきたのだけど、話しかけてくるなよオーラをびんぼうぶるいのヒザのあたりからモーレツに発していらっしゃったので、私はおとなしくしていた。

「カトさん?」

奥のドアがあいて、しらがのひょろっとしたオジサンがでてきた。例のアルポだ。


すらっとやせて背が高く、手足もながいアルポは総シルバーヘアー。このふさふさシルバ―ヘアーのおかげで、オジサンというよりオジイサンの雰囲気になってしまっているのだけど、たぶん50代後半くらいだろう。

その場で簡単に自己紹介したあと、階段をのぼってくねくねとした廊下を行った先にあるアルポの部屋に通された。左右の壁は本棚でかこまれ、正面には窓があるアルポの仕事部屋の真ん中にはでっかい1畳くらいありそうな仕事机がある。私はその前におかれたふかふかした椅子に座った。

机をはさんで向かい合ったアルポ、口角にほほえみをたたえてらっしゃる。

「で、どうお手伝いしたらいいのかな?」

パバロッティもスカウトにきそうな包容力あふれるナイスなテナーボイス。

そんなわけで私はフガフガ過呼吸気味に、

『これまでの職歴や経験を生かした仕事につきたいのだけれど、そういうのオウル近辺ではなかなかなさそうなので、新しくゼロから別のキャリアを築くべく勉強しなおすことも検討中なのです。しかし新しく別のキャリアって言ったって何をしたいのかわからないのです』

というようなことを、アルポにせつせつとご説明申し上げた。




アルポはほんとに菩薩のようだった。

結局この日は1時間にわたって、ワタシのつたないフィンランド語によるボヤキ話に苦い顔ひとつせずつきあってくださった。途中で話をさえぎることも、「今日は何時何分までなんで」とか言うこともなく、ただひたすら、ワタシの気が済むまで、ずーーーーーーっと、ナイステナーなあいづちをうち続けてくださった。


相談にいくまえ、私はひそかに

「きっと面談中に心理テストみたいなことをして、最後には『アナタが向いている職業で、オウル近辺で仕事が比較的見つかりやすいのは、コレです!』ってなおつげを頂けるにちがいない。」

というふうに思っていた。

自分が何をしたいのかわからないのかよくわからないのだから、プロのおススメにとりあえずしたがっておけば間違いはないだろうってな算段だ。

しかし、実際はそうではなかった。

2回目に面談に言ったとき、アルポが言った。



「あなたの人生なのだから、他のヒトが『あなたはこれをやるのだ』とか決めたりはできないんだよ」



この言葉のとおり、アルポは最後まで「アナタはこうしたほうがいい」というようなことは一度も言わなかった。

『プロのお告げ』を授けるわけでないのだったら、じゃあアルポは何をしてくれたのかというと、ワタシの悩みのプロセスにひたすらつきあってくれたのだった。

ワタシがあーでもない、こーでもない、こうしたらいいのかな、ああしたらいいのかな、と半分独り言のようにつぶやき続ける言葉をときどきあいづちをうちつつ聞きながら、


「そういう情報はここで調べたりできるよ、たとえばこのサイトで…」

とか、

「そこの学校のシステムはこうなっててね…」

「体験入学や体験入社のような枠もあって、それはこういうものでね…」

などなど、自力でもっと調べるにはどこで調べられるのか教えてくれたり、私の知らなかった進路選択や就職活動のオプションについて説明してくれたりと、私の話の中でぽつらぽつらと浮かんでくる疑問や不明点などを地道にいっこづつひろっては、フォローしてくれたのだった。

すぐにその場でアルポが答えられない話のときは、私が帰った後に各所に問い合わせたりして調べてくれ、結果をいちいちメールや電話で教えてくれた。




しらがヘアをふさふささせながらじーっと私の話をききつつ、ときどきアルポはすんごい含蓄に満ちたことをつぶやくように言ってくれてたんだけれども、その中でも特にぐさーっと私の心の灰色ゾーンに突き刺さったのが、

「求人がたくさんありそうだからそっちの道を選ぶというのも選択肢のひとつだけれど、『これは自分の分野だ』と実感できる仕事につくのが一番だいじなんだよ。」

ということばだった。



で、私の今後の身の振りは結局どうなったかというと、

4月から半年ほど、オウルが本社なのだけれど世界各国に支社のあるワイヤレスビジネスというかエレクトロニクスのハードウェアとソフトウェアをつくっている会社で、お試し雇用という名のインターンとして働かせてもらえることになった。

このご縁は、そもそもはアルポのお導きなのだった。

迷走していた私のセカンド・キャリア探しの心の旅だったのだけれど、アルポと話していてひとつはっきりしてきたことがあって、それは、「今までやってきた仕事や学んできたことへの愛着を、私はそうそう簡単にはふりきれない」ということだった。

こんなしつこい執着体質ほんとどうにかしたいわあ、ばさっと竹をわるようなかんじでサクサク次へ進みたいのになあとぼやく私に、アルポは言った。

「執着していいじゃない!」
(注:おねえ口調ではないです)


そして、インターナショナルに展開している会社関連ばかりを担当している職安内の担当の方に私の事情やらを直接説明しにいってくれ、彼女が担当している会社にばらまいてくれと私の履歴書を渡してくれたのだった。

そのインターナショナルビジネス担当の職安の方は言ってることが半分くらいしかわからない超絶早口の切れ者風敏腕女性スタッフなのだけれど、私のことに興味をもってくれそうな会社の担当者を彼女が超ピンポイントで何人か釣ってくださったおかげで、あれよあれよという間にあちこちから連絡をいただき、結果、今回の話につながったのだった。

敏腕早口女史が色々手を打ってくれている間も、アルポはいろいろ気にかけてメールをくれたりしていた。
面接が終わって、好感触だったと報告したときは、

「今は無給だけど、この間にカトがどんなことができるか毎日プレゼンするのだよ。インターン期間終了後に雇ってもらえるように祈ってるよ!」

とアルポ。



インターンが決まって書類手続きも無事完了のめどがたったので、さっそくアルポにお礼かねて報告しようといそいそとパソコンをひらいた。

私は不安と期待と感謝でぶるぶるふるえる手でメールを書いた。




アルポ様 
インターン先、決まりました。
そのあとどうなるか、まだわからないけれど、
ここまで私をたすけてくれて、どうもありがとう。

じゃ、よい一日を!

カト





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